新築マンション、発売絞っても高値維持の限界

2021-05-10 11:48:32

発売激減の背景にあるのが、4月から5月にかけての緊急事態宣言下での営業自粛だ。大手デベロッパーを中心にモデルルームの閉鎖を余儀なくされ、新規の営業がストップ。テレビ電話などでリモート営業に乗り出す会社もあったが、「最終的にはモデルルームで現物を見せないと、なかなか契約に至らない」(マンションデベロッパー)と苦戦した。

コロナ前に発売した住戸が捌けない手前、各社は無理に新規発売を進めるよりも在庫の圧縮を優先した。その結果、予定されていた住戸の発売や新たなマンションプロジェクトの発表が先送りされた。マンション調査会社のトータルブレインの集計によれば、首都圏の新築マンション259物件のうち、100物件で住戸の発売を延期した。

下期の発売も低調

下期の発売戸数も、上期の落ち込みを巻き返すほどの勢いはなさそうだ。2020年の首都圏新築マンション発売戸数は、元々3万戸程度と見られていた。だが、トータルブレインの杉原禎之副社長は、コロナ禍を受けて「2万戸前後に落ち込みそうだ」と見通す。1991年のバブル崩壊時ですら2.6万戸だったことを考えれば、その少なさが際立つ。

年間2万戸とした場合、2020年下期の発売戸数はおよそ1.2万戸となる。2019年下期の発売戸数1万7802戸と比べると、それを下回る水準になる。モデルルームの「3密」を避けるためには案内できる客には上限があり、発売戸数の上積みは難しい。野村不動産はコロナ禍での契約進捗鈍化を理由に、2020年度のマンション引き渡し計画を当初の4000戸超から3700戸へと見直した。

発売減少は需要の不透明感だけでなく、売主であるデベロッパー側の事情に依るところも大きい。一般的に、マンションは商品設計から建築工事、引き渡しまでを2~3年のサイクルで回す。

体力のないデベロッパーなら値下げをしてでも資金回収を優先するが、現在の新築マンション市場は資金の潤沢な大手デベロッパーが中心。彼らは向こう数年分の開発用地をあらかじめ手当てし、客の購入意欲や同業他社の発売動向などをにらみつつ最も利益が取れる時期を狙って開発を進める。

超低金利を追い風に、利益が取れるタイミングまでマンション開発用に仕入れた土地の塩漬けをしても金利負担は重くない。コロナ禍での発売延期を受けて「マンション工事の発注が後ろ倒しになっている」(大手ゼネコン)など、すでに発売スケジュールの見直しが始まっている。

大手デベロッパーの間では、このような需給調整はこれまでも繰り返されてきた。だが、それらは中長期的な戦略に基づいたものだ。今回のコロナ禍という突発的なアクシデントに対しては、少々事情が異なる。

発注前ならば工事を後ろ倒しにして調整することができるが、契約済みの工事をデベロッパーの都合で凍結することは難しい。国土交通省によれば、首都圏では2018年に5.5万戸、2019年に5.9万戸、今年上期だけでも2.6万戸のマンションが新たに着工されている。

コロナがなければ前年と同水準の発売が行われていたと仮定すると、上期に発売ができなかった6000戸は下期に回される。需給バランスを維持するためにはおいそれと発売戸数を増やすことができないため、今度は下期に発売予定だった6000戸が玉突きで来期に回され、どこかで吸収せざるをえない。

分譲予定の物件を投資家向けの1棟売りに切り替えて滞留物件をさばく選択肢もあるが、大手デベロッパーが手がけるファミリータイプや高級物件は投資家の射程に入りづらく、運良く買い手が見つかる保証はない。

勝負は秋商戦

デベロッパー各社は、「6月以降モデルルームへの客足は復調してきた」と口をそろえるが、先行きには不透明感が漂う。

マンション調査会社の東京カンテイの髙橋雅之主任研究員は、「感染拡大の第1波は発売の減少につながったが、感染収束が長引けば客の購入マインドや予算に響いてくるだろう。大幅な値下げに発展する可能性は低いが、需要を喚起するための価格調整やオプションの付与などは考えられる」と指摘する。

コロナ前から支給額が決まっていた企業が多かった夏の賞与とは異なり、冬の賞与ではコロナ禍が直撃した業績が加味されることも、住宅購入意欲や予算に響きそうだ。

新築との比較対象である中古マンションの動向も無視できない。一般的に、売り出しから3ヵ月を経過して成約に至らなければ、価格の見直しが行われる。東日本不動産流通機構によれば、6月時点での中古の成約価格はコロナ前と同水準だった。

緊急事態宣言解除後もひとまずコロナ前の相場で売り出して客の反応を見る動きが多く、コロナ禍が本格的に価格に織り込まれるのは秋口からと見られる。新築に必ずしもこだわらない客が増える中、中古の割安感が強まれば新築の値付けも意識せざるを得ない。

マンション業界にとって7~8月は客足が低調な「夏枯れ」の時期であり、デベロッパーの視線は9月以降へと向けられている。ゴールデンウィークというかき入れ時を潰された各社が巻き返しを図れるかだけでなく、柔軟な需給調整がとれなくなった状況で販売価格がどう推移していくのかを見る意味でも、秋商戦は例年にも増して重要になっている。